「迷子になったタクシー」
初めて行ったある地方での出来事です。
行き先をしっかり伝えて、安心して乗ったタクシー。その運転手さんと次のやり取りがありました。
「もう1時間過ぎていますが、もう少しで着きますか?」
「着かないよ。だって場所がわからないんだもの」
「それは困ります。大事な約束があるのです」
車内にはカーナビもなかったので
「それでは地元の方に道を聞きましょう」ということになりました。
コンビニの店員さんからはじまり、沢山の方から、親切に教えていただいたのですが、結局同じところをぐるぐるまわり、時間だけが過ぎて行きました。またメーターがカシャカシャ上がっていくのも気になり、焦りが出てきました。
そんな中、最後に寄ったガソリンスタンドで、ある若いスタッフのお兄さんが
「私が近くまで案内します」と言ってくれました。
車で20分くらい、もう大丈夫という道の入り口まで先導していただいたところで、お別れをしました。
やっと、見出した光明に私は嬉しくなり
「本当に助かりました。ありがとうございました」となんどもお礼を言いますと、彼は爽やかな笑顔いっぱいで、私達を見送ってくれました。
色々ありましたけど、彼に出会うことができたのも、迷子になったタクシーの運転手さんのおかげだとも感じました。
困っている時ほど、人の優しさが身にしみて、嬉しく感じるものです。
私はその喜びをかみしめながら、また同じように『他の人にもこの善意をつないでいかなければならない』と心に誓いました。
仕事を中断してまで、困っている人をほっとけず、何の見返りも求めないず、助けてくれた。
あのお兄さんの爽やかな笑顔を、私は生涯忘れることはないでしょう。
齊藤 隆明