走れ振司
おはようございます。札幌市真龍寺 飯田全祥です。
古参は激怒した。
その日、私が修行していたお寺では「大放参」という特別な朝を迎えていた。その季節は四時に起きて坐禅をし、その後、朝のお勤めをする。だが大放参の日は五時起床。坐禅はなく、そのままお勤めが始まる。年に数回しかない朝である。
起床を知らせるため、鈴を鳴らしながら寺中を走り巡る「振司」という役目がある。その大役を任されたのは、秋に上山したばかりの同期だった。私は春から修行していたが、彼はまだ日も浅い。初めての振司に、彼は目に見えて緊張していた。
「五時を告げる太鼓が『ドン』と鳴るからその音を聞いたら走り出せばいい」前日、私はそう言って彼を安心させようとした。
ところが…結果はフライングだった。
まだ太鼓は鳴っていない。にもかかわらず、彼は突然、鈴を手に全力で走り出した。静まり返った早朝に、大きな鈴の音が響き渡る。
私は驚いた。
飛び起きた先輩の古参和尚さんが、慌てて彼を追いかける。必死に走る彼がついに追いつかれた。その瞬間…ようやく太鼓が「ドン!」と鳴った。どこか間の悪い響きだった。
こっぴどく叱られた後、私はそっと彼に尋ねた。
「どうして太鼓が鳴る前に走り出したんだ?」
彼はうつむき、小さく答えた。
「緊張しすぎて…風で揺れた戸の『カタカタ』という音を、太鼓の音だと思っちゃったんだよねぇ…」
あれから年月が流れ、そんな彼も今年の二月に熊本で結婚式を挙げた。私の尊敬する僧侶の一人だ。早とちりも失敗も、叱られた日々も、すべては今日へ続く修行だったのだと思う。
鈴の音は、ときに勇み足になり、ときに眠る人を目覚めさせる。そして、ときに人を笑顔にする。
彼の鈴の音のように、仏さまの教えがより多くの人の心に響きますように。そう願いながら、私も今日一日を走り抜けていきたい。
飯田全祥

