2011年8月6日放送
法話
2011/08/06
2011年08月06日放送
うちのお寺では朝と夕の二回、鐘楼堂の鐘を撞いています。石垣を切って作ってある階段を上って鐘を撞くのですが、その階段がちょうどいいのか、よく大きなクモが巣を張っています。 鐘を撞く時間のちょっと前にその階段を上ろうとすると、階段いっぱいに巣を張って真ん中に堂々としているんですね。
通れない、さて困った。
私はいつも階段のすぐそばに細い竹の棒を置いていて、それでクモの巣を払うんです。そうすると驚いたクモは石垣の陰に隠れようと、一目散に糸を伝って逃げていく。そうやって巣を払って階段を上がらせて貰うんですが、何時も何時もせっかく夜に作った巣を壊されて可哀想だなという事で、たまに竹の棒でちょっと離れた林に移ってもらうんです。
ある朝、鐘を撞いた後に林に移ってもらおうと、棒を石垣のすみで小さくなっているクモに差し出しました。 するといつもはゆっくり棒に移るクモが、ちょっと後ずさりしてまた体を小さく丸めてジッとしている。なので棒の先をまた近付ける。また二、三歩後ずさりして小さく身を縮ませている。その格好は私の子供とまるきり同じでした。
今、私には二人の小さな子がいます。普段は生意気ですが、怖い思いをしたときなどは「とと、とと」と私を呼びながら私にしがみ付いてきます。それと全く同じ格好でした。 そう思えた瞬間、いままでずっと苦手だったクモがとても小さく哀れで、いとおしく、いとおしくなりました。人と姿大きさは違えども、それは確かに、一生懸命な命でした。
去年の夏の朝、幼い時からクモが苦手だった私とクモの四十五年目の再びの出会いの話でありました。
遠別町 正法寺
山本 大樹
山本 大樹