2011年7月9日放送
法話
2011/07/09
2011年07月09日放送
お檀家さんに、八十八歳のおばあちゃんがいます。若い頃結婚をして男と女の子、二人の子宝にも恵まれて、何不自由なく暮らしていましたが、会社を大きくする為に少し借金をしました。半分位返した頃ご主人に他界され、息子さんの代に成っても返済がうまくいかず、追い打ちを掛ける様に、息子さんも亡くなり、バブルがはじけ資金繰りが出来ず、ついに倒産してしまいました。
四十五年間、家族の為会社の為に尽くして来ましたが、残ったのは三千万円の借金でした。家や土地、家財道具など有りとあらゆる物全てを売ってお金に換えても、二千万円も返さなければ成りませんでした。七十近いおばあちゃんが、その日から生きて行くのも大変な時に、食べる物も着る物も削り、人とのお付き合いもせばめて、返済の毎日が始まりました。
その中で、おばあちゃんはご供養だけはきちんとしてこられました。月参りも法事もお寺詣りも、只の一回も休んだ事は有りませんでした。好きな言葉は『日々是好日』です。働くのもお参りや法事をするのも、今日の此日が私にとって、とても良い日だと言っていました。いつもの様に月参りのお経が終わり振り向くと、目に涙を一杯溜めて、ぽたぽたと落としながら、私の手を握り「やっと借金返し終わったのよ。お寺さん有難う、今日が一番いい日だよ。生まれてから今日まで仏さんを信じてきてよかった。ご先祖を大切にして来てよかった。有り難や、有り難や」と言いました。
おばあちゃんの手は、年老いた女性の手とは思えない程、大きなゴツゴツとした、ざらざらの冷たい手でした。
芦別市 大英寺
日比 英孝
日比 英孝